『人間の運命』への招待
『国文学
解釈と鑑賞』2008年2月号(至文堂)で「長編小説 時の座標」という特集が組まれましたが、野乃宮紀子氏が『人間の運命』を取り上げています。
ここで氏は、芹沢光治良を「義の人」および「美の人」としています。
自身、昨夏、見渡す限りの大パノラマに息を呑み、白銀に輝くモンテ・ローザを間近に森次郎と同じ場所に立って謎が氷解したといいます。
芹沢光治良は、無私とも言えるような大きな心で慈しんでくれた恩義あるペール田部氏の死を、病室で終らせたくなかったのである。最も美しい場所をペールに捧げ、その最後を飾りたかったのである。
と。
大塚誠のモデルとされる大塚兵吾にしても、同じことが言えるだろう。貧しかった一高時代の芹沢を、大塚は物心両面にわたって助けてくれたが、大正七年十月二十四日に、スペイン風邪で亡くなった。その無念の若い死を、芹沢は生涯忘れず、『人間の運命』に友情の形として書き留めたかったのである。
現代社会に対する、筆者の毅然とした主張がきこえてきそうですが、この一編を読んで、また、光治良文学にちかづいてくれる人があればいいなあ、と思います。
(2008.01.20)
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