― しあわせへの道しるべ ―

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芹沢文学に支えられて

おかもとせいじ


                               
 私が芹沢文学と最初に出逢ったのは今から二十一年前(1985年)の事です。大阪のとある町の小さな書店に何気なく立ち寄り、何か読むものはないかと書棚を物色していたら、上段の棚に「人間の運命」と背表紙に書かれた書物が目に入り、何故かその前で足が止まったのです。それは「運命」という文字に無意識に身体が反応したからだと思います。

 と言いますのも、その頃の私は宗教で説く宿業、罪業、因縁論にはとても懐疑的で、「人間の運命」と題された書物に反射的に思わず身構えたのかも知れません。当時は三十才代のまだ血気盛んな頃で、半分挑戦的な気持ちも手伝って、運命論のアラ探しでもするぐらいの傲慢な気持ちで買って帰ったのです。

 その夜、眠る前に少しだけでも読んでおこうと思って表紙をめくったところ、主人公の森次郎少年が艱難辛苦の中を、自らの強い意志だけをたよりに次々に立ち向かって高い壁をのり越えていく姿に深く感銘し、その物語の世界に一気に引き込まれていきました。

 あとはもう夢中になって読み耽ってしまい、ふと気がつくと窓の外は白んでいて、いつの間にか朝になっていました。それまで本読みに夢中になって朝を迎えるという経験はあまりなかったものですから、この作品は人の心を掴んではなさない何か凄い力を秘めていると感じたものです。

 その後は、寝る時間を惜しんでは読書をする日々で、本を片時も放せませんでした。全巻を読了した時はこれまでの人生観がすっかりと変わってしまうほどに衝撃を受け、この感動を、誰かに伝えたいという想いが胸の内から沸々と湧いてきて、押さえる事ができないほどでした。

 作者は、次郎少年をとおして運命というのは、自らの意志と努力で如何様にも切り拓いて変えて行くことのできるもの。との考え方を貫いていました。言葉を変えれば人間の幸も不幸も自らが創り出していると言うことです。この捉え方は私にはとても腑に落ちて目からうろこが落ちる思いがしました。

 人間に勇気と希望をあたえるこの文学をもっと知りたい、そして、芹沢文学を心ゆくまで語り合える仲間があればいいなと思ったものでした。そんな時、当時まだ大学生であった若い友人に芹沢文学の素晴らしさを機会あるごとに話していましたら、熱意が通じたのかその友人が後に芹沢文学の愛読者となり、そのことが契機となり数年後には念願の読書会が大阪に花開くこととなりました。

 早いもので昨年十一月の文化の日でちょうど十七年目に入ったと聞き、感慨深い思いが胸を巡ってまいります。当初は仲間も少なく、最少の時など参加者が三名という日もあったのです。このところはインターネットの普及のおかげで十名前後の出席者が有り、やや安定してきた感があります。毎回、大阪独自の言いたい放題の文学談議で楽しんでおります。


 さて、二十年芹沢文学に向き合って想うことは、沢山の心の栄養を膨大な作品群から与えて頂いて、幸せと感謝の気持ちでいっぱいです。そんな事を感じているのは勿論私だけでなく、他にも多くの方々が日々の人生を前向きに楽しく歩まれて居られるのではないかと思っております。

 しかし、昨今の報じられる暗い事件や災害などで心ならずも胸を痛めている方も中にはおられるのではと危惧もしています。どんなに大変な中にあっても、芹沢文学を胸の中に灯しつづけて生きて行かれれば希望を失うことなく心に極楽をいだき、天からは芹沢先生にいつも励まされているように感謝の中に暮らすことが出来るのではと想っています。

 話は少しそれてしまうかも知れませんが、かの「平和と愛」を提唱し、その後、凶弾に倒れた世界的ミュージシャン、ジョン・レノンの最愛の妻でありますオノ・ヨーコさんが、ここ数年、世界的規模で発生している災害や事件、また戦争などについてのメディア側のインタビューに次の様に答えられておられます。

 「夜明け前の寸前は最も闇が深く今がその時です。明るい未来の前の漆黒の闇が現在ですから決して希望を失うことのないように」と、「平和と愛」を訴えてきた達人だからこそ云える力強いメッセージだと思います。これは芹沢氏の伝えたかった文学精神に通じるのではないでしょうか。

 私も長年芹沢文学から学んできた文学精神を何か形に著したいとの想いから現在、小説に取り組んでいます。テーマも芹沢文学に織り込まれている「愛」を主題にしたものを描けたらと願っているところです。

 先ずは妻を唯一の読者と思い定めて、日々創作に励んでいます。幸い今のところ「なかなか面白いよ」と云って読んでくれておりますので。こうして煽(おだ)てられている内はもう少し書き続けられるかなと自ら励ましております。気がつけば四百字詰原稿用紙にして百枚を越すまでになりました。

 そして、今では書く喜びも少しですが味わっております。今日まで、まさか自分が創作をするなどとは夢にも思ってみなかっただけに一番驚いているのが誰あろう自分自身であるのですから人生とは判らないものです。

 これも、良い作品に永く親しんできた賜物のようで、読書会を続けてこられて良かったと心から思っています。これから先どれ位書き続けられるか判りませんが、たった一人の読者である妻に喜んでもらえるものを頑張って書いて行こうとひそかに願っているところです。

 

初出:芹沢光治良文学愛好会
2006年2月 通信 No.343
リレー随筆(263)

に一部訂正をくわえました

 

(2007.03.14 掲載)


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※ リンクがはずれている箇所を発見されたら、ご一報くだされば幸いです。(2004.11.04)